北国の仙人
人の記憶の中には、本当にあったことなのか、
あるいは自分の思いが創り上げた妄想のようなものなのか、定かではないものがある。
街ですれ違った人が、実はどこかで会ったことのあるあの人ではなかったか、と思いながら、
それが誰だったか思い出せないときなど、記憶の部屋がざわざわと動き出し、
なんとなく落ち着かなくなる。 それとは反対に、確かに体験したと確信にも似た思いがあるのに、
その体験が現実離れしていて、人に話すこともはばかられ、自分の中でじっと、
その記憶を反芻するしかないものもある。今日は、そんな話の一つをしたいと思う。