翌日、私は宿の布団の中で目を覚ました。昨日の遭難を、誰も知らなかった。
私は外出後、普通に戻ってきてそのまま部屋にいた、ということになっているらしかった。
私自身、吹雪の中で凍りついたはずなのに、手足に凍傷もなく、熱もなく平然と朝食を取りながら、昨日の遭難が、
夢ではないかと思えたのだった。
けれども、仙人は、確かに私にも言った。「零下三十度の吹雪の中で、カチンカチンに凍ってしまったら、人も魚と同じなんだぁ。
ゆっくり、上手にしなきゃ、死んじまうぞ。寒いからって、すぐにあったかいところに入れたら、ショックで死んでしまう。ゆっくり、
血の巡りを思い出すようにこすってやる。ゆっくり、ゆっくり。柔らかい布だって?それじゃ、まだあたたかすぎる。最初は雪だな。
雪で、ゆっくりこすってやる。すると、さかなが、ゆっくり元に戻ると同じように、自然にじんわりと血が戻ってくる。自分の力で、少し温まったところで、
またゆっくり上手に解凍してやれば、凍傷にもならねぇんだ。生き返ってよかったな。」