それからどれくらい経ったのだろうか。私は人の気配に気付いた。何人かの黒い防寒服に身を包んだ男たちが、
私を持ち上げようとしていた。そばには、白いひげを生やし、流れるような白い服と白髪をなびかせている仙人がいて、
指図しているようだった。
「凍り付いているから、折れないようにそっと持ち上げるんだよ。あの小屋の陰でいいよ。まだ、中に入れちゃだめだぁ」
ゆっくりと、北海道特有の、やさしい訛りだった。男たちの中の一人が言った。
「早くあっためねぇと、死んでしまうべ」
「いやぁ、だめだ。こんなに凍ってるんだ。あっためたら、溶けちまうぞぉ」
遠くの世界からかすかに伝わってくるような男たちの話声を聞きながら、わたしは小屋のかげ、ひとまず風の当たらないところに運ばれた。